■ロンリー・アット・ザ・トップ
マライアはブラック・ミュージックに惚れ込んでいる。
しかし、それは彼女の場合、「そっくりそのまま」うたい込むことではない。多くの歌において、彼女はサラリと「リアル・ブラック・ポイント」から外れてみせる。こってりと、黒人文化や彼女のルーツであるラテン文化にはまったりはしない。
それはマライアの「土俵」が、例えばマンハッタンにあったとしても、スパニッシュや黒人たちの居住区・アップタウンではなく、数え切れない人種が行き交う目抜き通り・マンハッタン中央部なのである。
彼女は、この大通りの中央で人を感動させることを選んだ歌手である。
ここにマライア・キャリーの、プロデューサーとしての選択眼ある。
『レインボー』にしても、ギャングスター系の曲やラッパーが並んでも、それはマライアにとっては、彼らに胸を借りたように見せながら、目抜き通りで彼らをどう料理したかがポイントなのである。やさぐれた男たちのラップ・トラックを使った「ハートブレイカー」にしても、自分の主張を通しながら、そこで美しく微笑んでいることでマライア・キャリーの大きさが見える。
(写真は『グリッター』のインナー・フォト)