MBS「はやみみラジオ」から:歌で考えよう<喫煙と禁煙>
文・藤田正(2007年6月)

 タバコ。いまや世間の嫌われもの、といっていいでしょう。 
 歩きタバコが条例で禁止された所(例:東京都千代田区)もあります。
 全館禁煙のビルやカフェが急速に増加し、病院などの公共施設での喫煙も厳しい制限が加えられているのが普通となった昨今です。
 歌の世界でも、タバコの登場は少なくなってきたように思います。
 少し前までの小説や映画、音楽で、タバコは「必需品」でした。
 犯人を追い詰める刑事がくゆらす紫煙。カウンターで「あの人」を待ち続けるホステスの指先にはスリムなシガレットが。軍歌にも「語り明かそう敵機の上で 星が瞬くあの星見れば くわえタバコのほろ苦い」と(「ラバウル小唄」作詞=若杉雄三郎、作曲=島口駒夫)。
 そして、反抗期のワルガキたちにとっても、マッチ(これも今や絶滅か!)とタバコは、かつてセットでした。
 ……というところで、歌の中にみる、タバコと私たち。
 
 
<1>ちょっと下品ですが、目覚めの一服といえば:DTBWBの「スモーキン・ブギ」
 タバコ・ソング、そして朝! といえば、もうこの歌でしょ。
 宇崎竜童さんが中心となったダウン・タウン・ブギウギ・バンドの出世作「スモーキン・ブギ」です。
 舞台衣装がツナギの作業服、アタマはリーゼントというツッパリ諸君を意識したイメージで一世を風靡したロック・バンドがDTBWB。その1975年の大ヒットです。
「目覚めの一服、食後の一服、授業をサボって喫茶店で一服」(作詞=新井武士、作曲=宇崎竜童)
 タバコを吸わない人には、悲鳴を上げたくなるフレーズの連発・連続。反対に、愛煙家にとっては、「そーです、そーなんです」の景気のいい歌でした。
 ちなみにパロディ・シンガー(?)、嘉門達夫さんにはこの歌の女性版「スモーキン・ブギ・レディース」(作詞=新井武士・嘉門達夫、作曲=宇崎竜童)があります。
「目覚めの一服、食後の一服、ヤンキー娘はしゃがんで一服」……なんて歌詞です。とほほだね、ったく。
 
amazon-『ヴィンテージ・ベスト/ダウン・タウン・ブギウギ・バンド』
 
 
<2>酒場の女にはタバコは必需品:中条きよしの「うそ」
「折れた煙草の吸い殻で、貴方の嘘がわかるのよ〜」
 ご存知、中条きよしさんの1974年のデビュー・ヒット「うそ」です(レコード大賞大衆賞)。
 作詞は山口洋子さん、作曲は歌手としての彼を見出した平尾昌晃さんです。
 演歌、特に夜に働く女性たちをテーマとした歌に、タバコは欠かせません。
(男を)待つこと。恨むこと。控え目でいること。涙を流すこと。こういったシーンの「道具」としてタバコが登場します。
 中でも「うそ」は、筆頭の1曲でしょう(歌詞には夜の女であろうことが、三番の歌詞でほのめかされるだけですが)。
 中条さんのその甘い声は、煙草の吸殻を見れば男のウソがわかってしまうという山口さんのコワーい歌詞を見事に消化しています。さすが「女ごろし」の、中条さんであります。
 尽くす女性の典型と言えば、テレサ・テンさん。彼女の別れの歌「つぐない」(84年)にも、こんな歌詞が出てきます。
「心のこりは あなたのこと 少し煙草もひかえめにして」(作詞=荒木とよひさ)
 
amazon-『定番ベスト/中条きよし』
 
 
<3>こんな可憐な歌にもタバコが:松田聖子の「赤いスイートピー」
 アイドルの世界でも、タバコがテーマになることがあります。
 いえ、未成年の喫煙騒ぎで先日、ゴシップ誌をにぎわわせたあの子(加護亜依)のことではありません。
 たとえば、1982年に大ヒットした松田聖子さんの「赤いスイートピー」にも、アタマから出てきますねー。
「春色の汽車に乗って 海に連れて行ってよ 煙草の匂いのシャツに そっと寄りそうから…」(作詞=松本隆、作曲=呉田軽穂<ユーミン>)
 ここに登場するタバコは、男らしさをイメージさせる「道具」「装置」、というところでしょうか。歌われる彼氏は「ちょっぴり 気が弱い」性格ではあるのですが、それだからこそタバコを吸う、というところに、少しだけ「男らしさ」を匂わせているのですね。
 春色、海、岸辺のスイートピー…といった可憐なイメージに、タバコの香りを、無理なく重ねることを許された時代の歌? でしょうか。
 
amazon-DVD『SEIKO MATSUDA COUNT DOWN LIVE PARTY 2006-2007/松田聖子』
 
 
<4>青春の叫び、反抗の象徴として:尾崎豊「15の夜」
「校舎の裏 煙草をふかして 見つかれば逃げ場もない しゃがんでかたまり 背をむけながら…」(1番)
「覚えたての煙草をふかし 夜空を見つめながら 自由を求め続けた 15の夜」(2番)
 26歳の若さで亡くなったシンガー・ソングライター、尾崎豊(1965〜1992)さんのデビュー・シングルです(1983年)。
 作詞作曲も、もちろん彼自身。
 若者の疎外感、やり場のない気持ちを歌いこめて、今でも熱烈な支持者を持つ尾崎豊さんですが、彼にとってのタバコは、大人社会への反抗、抵抗でもありました。
 セカンド・シングルになった、「17歳の地図」にも、
「喧嘩にナンパ 愚痴でもこぼせば皆同じさ うずうずした気持ちで踊り続け 汗まみれになれ くわえ煙草のSeventeen's map」(83年、作詞作曲=尾崎豊)
 とあります。
 生きたい、生きざるを得ない、でも! 
 答えの出ない青春を、ただ突っ走るだけ。その象徴が、禁じられている未成年の喫煙? なのでしょうか?
 
amazon-『十七歳の地図/尾崎豊』
 
 
<5>フォーク世代に忘れられない歌:西岡恭蔵「ぷかぷか」
 タバコをくゆらす楽しみ……タバコが大嫌いな人には理解不能?
「俺のあん娘は たばこが好きで いつもプカプカプカ 身体に悪いから 止めなって言っても いつもプカプカプカ」
 関西フォークには欠かすことのできないグループ、ディラン供淵札ンド)の西岡恭蔵さんが作った、のんびり系フォークの名作です(録音は1972年が最初だと思われる)。
 桑田佳祐、福山雅治、奥田民生、原田芳雄、桃井かおり……など、これまでたくさんの人たちがカバーしてきました。
 身体に悪いと知ってはいても、なかなか止められない、タバコ。
 知ってはいるんだが…そうはいっても、プカプカ。
 さてみなさん、こういう歌を聞いて、どう思われましたか?
 yes or no ?
 ただ世の中は今、確実に「タバコ、no!」へと動いています。とすれば、歌だけでタバコを楽しむことにしますか、これからは。
 
amazon-『きのうの思い出に別れをつげるんだもの/ディラン2』
 
 
<6>時代が変われば意味も変わる?:沢たまき「ベッドで煙草を吸わないで」
「ベッドで煙草を吸わないで 私を好きなら火を消して…」
 この出だしの歌詞、みなさんはどういう意味だと思いますか?
 a)タバコ嫌いの女性が、ダンナさんに向かって嫌煙権を行使している場面。 
 b)ベッドでタバコを吸うなんて、火事になるじゃない! 危険だからやめてよ!! と奥さんが睨んでいるシーン。
 ……約40年ほども前のヒット曲(1966年)ですから、当時をご存知ない方々は、今のご時世を予測した社会派の歌、と思われるかも知れませんね。実は「ちょ〜っと」意味が違います。
 時代が変われば、みんなの受け取り方も変わる? 
 歌をうたったのは、その晩年、参議院議員としても活躍した「沢たまき」さんの代表曲でした(2003年に67歳で亡くなる)。
 歌手としての沢さんは、そのトローンとした声で男性を魅了した、セクシー・シンガーでした(TV「プレイガール」のオネエ役としても有名)。
 そう、「ベッドで煙草を吸わないで」(歌詞=岩谷時子、作曲=いずみたく)は、そんな彼女の魅力を100%に活かした大ヒットで、お布団の中でタバコを吸っているヒマなんかあるなら、早く私に愛の言葉をささやいてちょーだいな、という内容なんです。
「こっちを向いて 愛の言葉を 髪をほどいた 首すじに なぜか煙りが くすぐったいわ ベッドで煙草を 吸わないでね」(3番)
 ……いやぁ、おあついところ失礼しました。            
 でも、男性であれ女性であれ、隣りでタバコなんかふかされちゃあ、あたしゃキッパリとお断り。もう、そんな御時世なんですよ今は。

amazon-『ミュージックコレクション/沢たまき&プレイガール』
 
 
*この原稿は、毎日放送「はやみみラジオ 水野晶子です」(月〜金 午前6:00〜7:45)の「音楽いろいろ、ちょいかじり!」に書き下ろしたものを再構成しました(放送日:2007-05-28〜06-01)。

( 2007/06/01 )

第4回「コザ・てるりん祭」を終えて 文・藤田正
音楽評論家・中村とうよう氏の投身自殺に寄せて:
博多でゴリゴリ、圧倒的なサンタナ・ナイト
「第3回 コザ・てるりん祭」 photo by 森田寛
世界から東博へ、役者が勢ぞろい。「写楽」展がはじまる
藤岡靖洋 著『コルトレーン ジャズの殉教者』を読む
東京セレナーデ Live at 赤坂GRAFFITI
祝・満員御礼:10.25「ディアマンテス結成20周年記念」
Introducing...エリック福崎を紹介する
お報せ:「ディアマンテス結成20周年記念ライブ」は定員に達しました
書評:長部日出雄著『「君が代」肯定論〜世界に誇れる日本美ベストテン』
書評:西原理恵子、月乃光司著『西原理恵子×月乃光司のおサケについてのまじめな話』
誕生釈迦仏がセイ・ハロー:「東大寺大仏 天平の至宝」展、始まる
イサム・ノグチの母を描いた力作『レオニー』、11月に公開
アルコール依存症の実状を正面から描いた『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』
ジャズ界のトップたちを率いて:大西順子『Baroque』Live
映画『瞳の奥の秘密』:現代アルゼンチンでいまも燃える「汚い戦争」の怨念
十代のジョン・レノンを描く:『ノーウェアボーイ』、11月5日から公開
きちじょうじのなつやすみ:河村要助の世界<その2>
上々颱風LIVE「デビュー20周年記念!スペシャル」を観て
MBS「はやみみラジオ」から
MBS「はやみみラジオ」から:歌で考えよう<喫煙と禁煙>
MBS「はやみみラジオ」から:映画と音楽で体験するアフリカ
MBS「はやみみラジオ」から:団塊の世代のヒーロー「壊し屋としての拓郎」
あの昭和20年:日本の敗戦と世界の音楽
黄金のヒットメイカー、阿久悠の世界・其の二
黄金のヒットメイカー、阿久悠の世界・其の一
マイルス・デイビス 80歳おめでとう特集
君はビートルズを見たか!…40年前の世紀の大騒動
MBS「はやみみラジオ」から:「グラミー賞よもやま話」
MBS「はやみみラジオ」から:エルビス・プレスリーとその時代
MBS「はやみみラジオ」から:「テレサ・テンという人生」
MBS「はやみみラジオ」から:山口百恵はなぜ[伝説]であり続けるのか?
MBS「はやみみラジオ」から:「クリスマス・ソング・スペシャル 1〜6」
MBS「はやみみラジオ」から:「クラシック音楽をもっと身近に!」
表紙へ戻る