MBS「はやみみラジオ」から:映画と音楽で体験するアフリカ
文・藤田正
ブラッド・ダイアモンド/
Warner Brothers
 アフリカ映画の特集です。
 映画と音楽で体験するアフリカ。ここ最近、アフリカをテーマにした映画が目に付くようになりました。独立系の作品だけではなく、レオナルド・ディカプリオが主演した『ブラッド・ダイアモンド』のように、ハリウッドで、しかも人気の高い俳優たちもこの「ブーム」に参加している……そんな印象です。
 現在のアフリカ映画ブームには、一つの特徴があります。それはアフリカの社会問題を地球全体のこととして考えてみようという、言ってみれば社会派的な内容の作品が中心を占めていることです。
 かつては、例えば『ターザン』のシリーズがありました。未開の地アフリカで、強靭な肉体を持った皮パン1枚の白人が大活躍する作品。
 ジョン・ウェインの『ハタリ!』は、野生動物とプロ・ハンターの物語。
 エルザというライオンと白人夫婦の愛の交流を描いたのが『野生のエルザ』。
 日本では社会的な現象ともなった『ブッシュマン』(ニカウさん!)もありましたね。
 その多くは、アフリカを「未開の地」として見ていることです(ヤコペッティ監督の大ヒット『世界残酷物語』もありました)。
 そんな(欧米の人たちが作った)「アフリカ映画」の傾向に、近頃は少しずつ変化が見られるようになってきました。
ホテル・ルワンダ/
KIGALI RELEASING LTD.
 虐殺された黒人活動家スティーブン・ビコを中心にして南アの「アパルトヘイト」を正面から描いた『遠い夜明け』(デンゼル・ワシントン)もありました。絶滅寸前のマウンテン・ゴリラをテーマとしたシガニー・ウィーバーの『愛は霧のかなたに』。そして、「100日で100万人」という信じられない数の虐殺が行なわれたルワンダの内戦、その渦中を活写した『ホテル・ルワンダ』(ドン・チールド主演、2006年に日本公開)。
 ……こういった映画は、おおむね、アフリカで起こっている悲劇、惨劇は、非アフリカ人である我々も知らなくてはならない、というスタンスで描かれています。
 今週は、そんな今の「アフリカ映画」にどんなものがあるのか、その音楽もふくめて覗いてみましょう。
amazon-『ホテル・ルワンダ プレミアム・エディション』
 
<1>あのアミン大統領が映画で甦った!:
ザ・ラスト・キング・オブ・スコットランド
ザ・ラスト・キング・
オブ・スコットランド/
TWENTIETH CENTURY FOX
 この2007年春に日本でも公開された話題作の一つがこれ。
 個性派の俳優、フォレスト・ウィテカーが、殺戮の限りを尽くしたといわれる独裁者、アミン大統領を見事に演じ切り、第79回アカデミー賞主演男優賞を受賞した作品です。
 ある時は陽気な、頼れるウガンダの大統領・革命家。かと思えば、側近も含めて誰一人として人を信じない陰鬱な支配者、イディ・アミン。ウソかホントか知りませんが、邸宅の冷蔵庫には切り刻まれた人肉が詰め込まれていたという、(西欧発の)ニュースでメディアを賑わわせた「殺人鬼」と呼ばれた人物。
 この極端で複雑な性格は、映画が後半に進むにしたがい、恐ろしいアフリカの現実を生み出して行くのでした。
 へぇ、と思ったのが「ミー・アンド・ボビー・マギー」。ジャニス・ジョプリンのヒットでも知られるこの歌が、大統領のパーティ会場で(黒人バンドによって)演奏されていたこと。70年代のアメリカン・ロックが、同時代の日本だけではなくウガンダでも歌われていたというのも、音楽好きには面白かったですね。

<2>一匹の魚から始まる不気味な食物連鎖:ダーウィンの悪夢
ダーウィンの悪夢/ジェネオン
 2006年に公開されて、小さな映画館での上映ながら、各地でたくさんの人がつめかけた名作ドキュメントです(近日、DVD化されるそう)。
 ビクトリア湖という世界最大級の湖が、ある大型魚の放流によって環境が激変。その魚(ナイルパーチ/日本ではスズキの代用魚に)は、湖畔のきったねー工場で加工され、加工食品は毎日やってくる大型輸送機で欧米へ大量に運ばれる……そう、正体のわからない、スーパーで売ってる切り身の白身魚や、バーガーの間に挟まれてるアブラで揚げたフィッシュなんて、絶対に食べない!……と総毛立つこと間違いなしの映画ですね。
 想像を絶する貧困と環境破壊。そのアフリカの困窮の上に、欧米社会の生活が成り立っているのだと、この映画は痛烈に訴えかけます。私たちが何気なく食べている食品は、いったいどこから来たのか? 地球の反対側だから、などとは言ってはいられない、私たちと密接にリンクするもう一つの社会を描いた名作です。かつてマニラのスモーキー・マウンテンの中に入り取材したことがありました。あの地域も凄まじかったけど、ビクトリア湖畔に生きる人たちはまさしく「この世の地獄」。
 で、ヨーロッパから飛んでくる輸送機は、いったい何を積んでアフリカへやってくるのでしょうか?……暗示されるのがアフリカ内戦用の武器なんですね、これが。
 めちゃくちゃ皮肉なのは、ジャズ・ボーカルのボビー・マクファーリンが歌ってグラミー受賞曲となった「ドント・ウォリー・ビ・ハッピー」が、加工工場の社長室のラジオから流れ出ること。このラジオが壊れ気味なんだけど、「気にすることないよ、幸せでいよう」という歌詞が、うぇぇ〜ってなります(もちろんマクファーリンには何の罪もないんだけど)。
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<3>ダイヤモンドという搾取:ブラッド・ダイアモンド
 キャッチコピー「レオナルド・ディカプリオが元傭兵のダイヤ密売人に扮した社会派エンタメ。ダイヤ取引をめぐってアフリカの内戦が激化するカラクリを、王道の冒険ドラマの形式で描き出す。宝石業界に一石を投じるなど現実を見据えた硬派な作品だ」
 ……的確です。
 この映画は、アフリカでなぜ内戦が繰り返し行なわれるのか、そして、その過程で膨大な数の子どもたちが誘拐され兵士として育て上げられるのかをも描いています(女性は性の対象に)。
 ディカプリオもヨゴレ役で、まさに迫真の演技。映画館では、「これ、ほんまにディカプリオ?」という声も聞かれ、あの美少年の時代しか知らない人にとっては、戸惑いすらおぼえる作品だとも言えるでしょう。
 ただ、あくまで比較、肌で感じる印象なんだけど、「ダーウィンの悪夢」や次に挙げる「ツォツィ」など併せて言えば、『ブラッド・ダイアモンド』は結局はハリウッド版アクション映画なんですね。それでどこが悪い、ってことじゃなくて、充実のエンタテインメントだからそれでいいんだけど、莫大な予算を使って、ドンドンバンバン大爆発、子どもは麻薬を打たれて殺人鬼になって撃ちまくる……ってことを繰り返すと、この映画が終わったあとってお腹が空いてしまうんだよね。「活劇」だから。
 ハリウッドのこういう映画って、終わったあと、覚えていなくてもいいよ、という「陰の装置」すら付いているんじゃないかと思う、近頃です。
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<4>ヨハネスブルクの青春:ツォツィ
TSOTSI Films
 これも全国で公開中の話題作です(2006年、アカデミー賞外国語映画賞受賞作品)。
 ネルソン・マンデーラを生んだ国、南アフリカは、人種隔離政策「アパルトヘイト」がなくなった今でも、たくさんの人が貧困に、そしてHIV・エイズの蔓延に苦悩しています。
 この映画はヨハネスブルクの下層社会に生きる少年ギャングの姿をリアルに描いたもの。
「ツォツィ」という聞きなれない言葉は、現地の俗語(スラング)で「不良」という意味だそうです。
 今、日本でも大流行のラップ・ミュージックが全編に流れる『ツォツィ』。こういった音楽が、本当はどんな場所から生まれたのか、その成り立ちを体感する上でも見事な内容になっています。ゾラという同国の人気ラッパーも出演し、彼はテーマなど多くの歌をうたっています。
 ……しかし、南アに限らず、世界のブラック・ミュージックを愛する人たちに、この映画はキツい。アメリカのラップ系ギャングスター映画と、まぁ似たような流れではあるんだけど、全体を覆う深刻さ&緊迫感がものすごいんだ(主人公の目が素晴らしい)。ラップはどこに生まれたのか、どんな最悪・最低な人生とブラック・ミュージックは共にあるのか、ってことが、最初から最後まで画面に溢れかえっているから。
 黒人音楽ファンは、彼女彼氏と一緒に行くんじゃなくて、一人で観にいったほうがいい。愛するだけに、ほんとキツい。
amazon-CD『ツォツィ(サントラ)』
 
<5>アフリカからエルサレムへ?:ジェイムズ聖地へ行く
ジェイムズ聖地へ行く/Uplink
アフリカ映画」特集の最後は、6月23日から東京・大阪で公開される『ジェイムズ聖地へ行く』。
 でも舞台は、アフリカ大陸ではなく、なんとイスラエルなんですね。
 ……敬虔なキリスト教徒の黒人青年が、アフリカからイスラエルへやってきます。 
 村の次期牧師に命じられたジェイムズ君、聖地エルサレムへ巡礼の旅へとやってきた。が、なんと税関で不法労働者と誤解されて留置場へぶちこまれてしまう。
 純朴な一人のアフリカ青年の人生が、一瞬のうちに変わってしまう……その顛末を描いたのがこの映画です。
 誰もが富(おカネ)にむさぼりつく現代社会の中へ放り込まれたジェイムズ君は、そこで何を得てアフリカへ帰ってゆくのでしょうか?
 アフリカ人の視点から見た、「私たちの豊かさ」、それがテーマのようです。
 どこかトボケた作品でもあるんだが、この映画を作ったのが自爆テロの実行者を描いた『パラダイス・ナウ』のプロデューサーなんだと知って、おお!、と感激しました。
 世界をまったく違うところから見ている。だって、アフリカ人がエルサレムに行く、なんて(実際に行くんだけど、その到達の仕方がナイス!)、いい発想だ。

*この原稿は、毎日放送「はやみみラジオ 水野晶子です」(月〜金 午前6:00〜7:45)の「音楽いろいろ、ちょいかじり!」のために書き下ろしたものを再構成しました。

( 2007/05/15 )

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