大城志津子とレイ・チャールズ
Warner
<1997年12月>
 年末の沖縄で、この原稿を書いている。昨日は、新春テレビ番組「民謡紅白歌合戦」の公開録画を観てきたばかりである。
 ここでいう「民謡」とは、もちろん沖縄の島唄のこと。NHKの「紅白歌合戦」をまねて、島唄だけで男女が競うのである。NHKとは規模も予算もまったく比較にならないが、逆に会場を埋め尽くした「我々のうた」に対する温かい視線がはっきりと見えて、とてもいいコンサートだった。
 このイベントでもしみじみ感じたのは、ベテラン勢が頑張っているな〜ということだった。ふだんのぼくは東京にいて、いつも新しい音楽の動向を気にして生活しているからなおのこと感じるのかもしれないが、ベテランが若手と交じり合いながらごく普通に活動しているのが、とても興味深い。NHKの紅白ではベテランの演歌勢がむりやり幅をきかせて、この人まだやってるんだと「笑う」のが、視聴者の楽しみの一つとなっている。安室奈美恵のような若手が山口百恵以来初めて女性軍のトリを努めるなんてことが話題になるくらい、音楽の実勢と業界内の「格」との調整にはなはだしい矛盾が見えるのだ。
 沖縄の紅白には、それがない。うたに力のある人、つまり修練を積んだベテランが、当然のようにうしろに登場する。その理由がうたを聞いているだけで納得できるのである。
 大城志津子も納得の大物である。大城は島唄の世界において最高のレベルにある一人として知られる人物だ。まだ五十歳だけれども、 十六歳で単身、那覇に来た時から弟子をとっていたという人だけに、ベテラン中のベテランと言っていい。
 今回紹介するのは、大城自身の歌ではなく、その弟子や仲間たちが大城作品をうたうというカセットである。
 その『大城志津子作品集 5』(国際貿易 RM0036)では、銘苅め かる力男や国吉真勇などが、実に渋いノドを聞かせてくれている。大城は歌手としても素晴らしいが、作家としても、歌い手の実力を存分に引き出すためにずいぶんと研究を重ねていることが、よくわかる作品集となっている。
 特に、ルーシー長嶺に注目がゆく。彼女は大城の秘蔵っ子として頭角を表わしてきた若い歌手である。ルーシーは、ペルーの出身。だから日本語は上手ではない。しかし、島唄となると話は別というのが不思議なのだ。
 ルーシーは、自分がうたっている曲がどのような内容であるかを、いちいち大城たちに教えてもらっているらしいが、そういうおぼつかない状態でも、これだけの情感を出してしまうのだから大したものである。彼女のような人がベテランの後継者として、ちゃんと控えているというのが沖縄芸能社会の奥の深さであろうと思う。
 ベテランといえば、レイ・チャールズもそう。いや、この人は「大」のつくベテランです。レイは、一九五〇年代から大ヒットを飛ばし続け、リズム&ブルースの旗手となり、そして今ではアメリカの音楽界における長老の一人。だが、やはり、彼も「お偉方の椅子」に安住している人ではない。
 最新盤『イマジン〜ストロング・ラヴ・アフェア』(写真)を聞いてもらえば分かることだが、優秀なバック陣をずらり従え、なおかつ若い世代への気配りも忘れず、しかも(ここが大事なのだが)自分だけのブルース的世界をきっちりと作り上げてみせる。やっぱりレイは凄いと思わせるアルバムとなっている。
 ベテラン、頑張っております。こういう意欲的なベテランたちが、若者に交じって日本のテレビでもごく普通に活躍してくれないかと、ぼくは願っているのだが、無理な注文だろうか?
 
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( 2003/01/31 )

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