昨年の12月、アトランティック・レコードの
アーメット・アーティガンが亡くなった。トルコ出身者で大の黒人音楽愛好家だったアーメットがアメリカン・ポップに果たした功績は計り知れないが、その最も重要なポイント、彼にとって出発点となったエピソードの一つを映画/DVDとして観ることができる。ジェイミー・フォックスの名演技で話題となった『Ray/レイ』(2004年)だ。アカデミー賞主演男優賞に輝いたフォックスが演じるのは、もちろん
レイ・チャールズである。
レイ・チャールズ自身が歌と演奏を担当し、十数年の歳月をかけて完成を見たこのフィルム、たくさんの賛辞を浴びた主人公の「光と陰」を描いて秀逸だが(音楽の使い方がまた絶妙)、まだニューヨークの小さなレコード会社だったアトランティックとの契約期間もかなり面白い。例えばアーメットとレイが初めて出会ったハーレムの安宿での二人のかけひきや(1952年)、スタジオで新曲をまとめてゆくシーンなどだ。スタジオではアーメットが「天才レイ」に向かって歌の指導するという信じられない事件も起こる。伝説の「メス・ラウンド」セッションのことだ(53年)…というのも、それまでのレイはナット・キング・コールやチャールズ・ブラウンら先行するスターたちの(いわば)モノマネであって、アーメットはレイに対して違う道、すなわちハードなブラック・ダンス・ミュージックへの方向性を示唆したのだ。アーメットは、たとえばこんな風にと、「天才」に向かって歌い出すのである。白い肌のアーメットがどれほどブラック・ミュージックを知っていたか、そしてそれを
レイ・チャールズがどう受け止めたか…ほぉ〜よう描けとるわの新時代の幕開けのシーンだった。
1000円でお釣りがくるバーゲン商品というのも、とっても嬉しいDVDなのです。
(文・藤田正)
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DVD『Ray/レイ』