とても十代半ばと思えない暗い顔をした女の子。やたらに太っている。その子が二人目の子どもを産む。二人の父親はどちらも、彼女プレシャス自身の父親でもある。
今年の
アカデミー賞の話題の一つが映画『プレシャス』だった。制作当初はスラムに暮らす極貧の黒人を描いて商売になるわけがないと、周囲から冷たい扱いを受けた作品だったが、結果は正反対だった。レイプ。DV。HIV。障がい者。十代の母。
差別。識字教育。ソーシャル・ケア。そして、女性の自立とは。現代日本社会とも関連深い問題が、ニューヨークの黒人社会を舞台に映像化された。
スッピン(?)のおばちゃん丸出しの
マライア・キャリー、
アカデミー賞助演女優賞を獲得したモニークと、女性たちの演技が素晴らしい。2010年4月24日、全国公開。
『プレシャス』の原作がサファイアによる同名の小説だ(もともとの題名は『PUSH』/日本語訳『プレシャス』は河出書房新社から)
字もろくにかけないプレシャスが、"I was left back when I was twelve because I had a baby for my fahver."と、口ごもるように語り出すところから始まる小説は、イナーシティ(都市の黒人街)の匂いにあふれる。映画も素晴らしいが、原書も同様。平易な、いや平易な言葉でしか自分を表現できない主人公の心の内実はむしろ小説のほうが、より描かれている。
「push yourself!」(自分で自分を切り拓くの)という言葉が映画にも出てくるが、地獄の現実を一人の女の子が未来にむかって、いかに生きようとするのか。パワーにあふれた小説もアリだろう。
(文・藤田正)
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