文・藤田正
『ニューヨーク・タイムズ』に、ハリケーンの犠牲者に関するバーバラ・ブッシュの発言が載った。バーバラ・ブッシュ、すなわち現在のブッシュ大統領の母親である(「Barbara Bush Calls Evacuees Better Off」2005年9月7日付)。
かつてはファースト・レイディでもあったこの白人、テキサスへ命からがら逃れてきた被災者(そのほとんどが黒人、有色人)に向かって、彼ら、人並みの権利を与えられていない(貧しい/underprivileged)人々にとっては、嵐が襲う前よりも(今のほうが)ずっといいじゃない、という発言をした。ファック・ユー、バーバラ! ホワイト・アメリカは、建国前から何も変わっていない。
彼女は、夫であるブッシュ元大統領やクリントン前大統領たちと共に、現政権の求めに応じ、地元テキサス州ヒューストンのアストロ・ドームなど被災者が集められた場所を慰問に訪れた。その際(9月5日)、「マーケットプレイス」というラジオ番組のインタビューに応えた時の発言がこれである。
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There's No Place Like America / |
いわく、ここに来た人々は「誰もが、(テキサスで与えられている)もてなしに、ものすごく圧倒されている(Everyone is so overwhelmed by the hospitality.)」と語り、だからこのもてなし(works)は、彼ら、貧しく、もともと人並みの権利を与えられていない人々には、とても良く作用しているの、と語ったのである。
同行のクリントンは、この時の訪問で、被災者の女性から「あんた、何しに来たんだ?」と激しく突っ込まれ凍りついていたが、政府・行政への怒りが爆発している現場を見ながらも、こういう発言をしてしまうバーバラ・ブッシュのセンスこそが、アメリカの恥部なのである。
日本の新聞には、思わず口が滑った、という解説もあったが、彼女が使う「もてなし hospitality」という言葉にウソはない。
すなわち、圧倒的な富と権力を手にしてきた白人支配者層からすれば、肌の黒く、惨めな生活をし、乱暴で汚くて、無教養な人々(それは、つい先ごろまで米国内において日系もその一部を構成していた)に対して、カビの生えたパンや、腐ったミルクを投げ与えることも、キリストの精神に基づいた温かいもてなしなのである。
最悪の被災地の象徴となった
ニューオーリンズ郊外には、行けども行けどもの最貧地区が続くが、そんな地区を全米各地に生み出したのは、彼ら支配層であったことに彼らはまったく頓着してこなかった。反対に、自分達はこいつらをずっと助けてきたのに、連中は未だに何もできない「薄汚れた生物」だ、と見下している…その歴史的な白人の精神風土が、こういう発言を生み出したのである。
息子である現大統領の哲学は「思いやりのある保守主義」だそうだ。
在日アメリカ大使館の「ジョージ・W・ブッシュ大統領」の紹介文によれば、「ブッシュは、有権者に対し、『私は、保守主義の哲学は思いやりの哲学であると確信している。それは個人を解放することにより、個人が可能性を最大限に発揮することを可能にする』と語った」(
http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-j072.html)。
個人の可能性を疎外し続けたのが、この人たちの「思いやり」なり「もてなし」の精神だったのではないか。アメリカには、人間を人間と思わない極端に差別的で暴力的な風土がある。
その風土がブルースやジャズを生み、ロックンロールを育んだ。これら20世紀を彩ったアメリカの音楽文化が、すべてこの深南部を故郷とするというのは、なぜか。
ハリケーン・カトリーナは、アメリカの正体をも暴き始めたようだ。
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