スティル写真公開:話題のソウル・ミュージカル『ドリームガールズ』ってこんな感じです
 2月17日から全国で公開される話題のフィルム『ドリームガールズ』。同名のブロードウェイ作品として大いに評判となったあとの映画化である。
 ジェイミー・フォックスビヨンセー、エディ・マーフィ…といったトップ黒人スターがそろってのこのミュージカルは、60年代から70年代初頭にかけてのモータウン・レコードと、そのトップ・グループであったスプリームズの成功譚をベースにして描かれている。
 Beats21は、公開に先がけてそのスティル写真を入手。その娯楽性(&ファッションも!)たっぷりのカットの数々をご覧にいれよう。
(文・藤田正)

 
United International Pictures
『ドリームガールズ』は、その題名のとおり、シンガーとしての成功を夢見る3人の少女がコーラス・グループとして「業界」の渦の中へ巻き込まれてゆくその姿を描いている。
 映像の中心となるのはもちろん、当代きってのブラック・ビューティ、ビヨンセーだ。
 彼女がスプリームズにおけるダイアナ・ロスの立場、ということになるのだが、それはあくまで「ネタモト」であって史実と映画のお話とではずいぶん異なる。事実としてのスプリームズは、フローレンス・バラードという実力派のシンガーがいたにもかかわらず、モータウンの社主であったベリー・ゴーティ・ジュニアが、リード・ボーカルを「独特の容姿と独特の歌声」の持ち主であったダイアナに固定し、それが功を奏してグループは大人気となった。が、反面、フローレンスは失意のままグループを離れるのである。
 
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 このあたりの経緯を知っていたり、あるいは往年のモータウンの実情に詳しい人にとっては、『ドリームガールズ』の、特に始まり(すなわち、おおよそ同社の勃興期)あたりは、ちょっと戸惑うかもしれない。というのも、もろに60年代の初期ソウルの音でもないし(それ風ではあるが)、ダンスにしても当時は(再び・それ風ではあるが)こんなんじゃないんだよねー…といったことに違和を感じるはずだからである。
 でも『ドリームガールズ』は、題材を「あの時代」の「あの人たち」に取材しただけであって、音楽もすべて自前であり、モータウン・カバーもない…といったこの映画のやり方が見えてくる頃には、椅子の中でリズムを取っていられるようになるんじゃないかと思う。なにしろ映画が進んで行くと、エディ・マーフィが歌中でラップ(シュガーヒル・ギャングみたいな古いヤツ)を唸ったりするから、音楽考証的てにはテキトーなの。
*写真:コーラス・グループ、ドリームズの中心であるディーナ(ビヨンセー)と、レインボウ・レコードの社長、カーティス(フォックス)。右奥は、実質的な主役かもしれない、ドリームズの一人、エフィ役のジェニファー・ハドソン
 
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 ビヨンセーを中心に観た場合、これはとっても華やかで、ずいぶん魅力的な映像じゃないだろうか。
 これビヨンセーなの?と、思わず目を疑う、まるで少女のようなスッピン姿から、彼女は(そして周囲の女性たちも)どんどん変わってゆく。で、それがことごとくかっこいい。衣装も、スプリームズもろの舞台衣装、70年代初期のミニ・スカート、セクシーな人妻風、歌舞伎の隈取りもびっくりのお目々どでかいアイライン、白人風と黒人風を使い分けた肌の色と、この人は本当に歌手なのだろうか?と思うほどにスーパーに「モデルさん」なのである。生きる着せ替え人形、動くバービー人形って感じ。
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 彼女は後半に、激しいボーカルを1曲聞かせるんだけど、その姿を綺麗だなーと思うと同時に、彼女はどうしてこんなに破綻のない容姿をしているんだろう?なんて、ふと考えてしまうほどなのだった。
 
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 熱唱派タイプのシンガー、ジェイムズ・サンダー・アーリー(エディ・マーフィ)のファッション・センスもいいねー。特に頭髪。いわゆる「コンク」の変形で、ニューオーリンズのエスケリータほどじゃないが、もりに盛り上げた頭髪の奇妙と汗飛び散りの熱演が身上のサンダー氏の姿は、おもわず噴き出してしまうほどイカしてる。マーフィは、こういう役どころ、ぴったりです。
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 マーフィ演ずるサンダー・アーリーは、おそらくウィルソン・ピケットあたりをイメージしているんだろう。映画の後半では、マービン・ゲイ(その傍らには夭折したタミー・テレル!)のイメージともダブらせているのが面白い。
 
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 そして最後に触れなくてはならないのは、もう一人の主役、ドリームズの一人であるエフィを演じたジェニファー・ハドソンである。
 彼女の存在とボーカルなくして、この2時間10分はあり得なかった。
 監督・脚本のビル・コンドン以下スタッフもそれを充分に承知しての起用で、ジェニファーのダイナミックなゴスペル歌唱法は他を圧倒しており、たとえば(フローレンス・バラードと同じように?)グループをクビになる時に歌う、「イッツ・オール・オーバー」〜「アンド・アイ・アム・テリング・ユー・アイム・ノット・ゴーイング」のシーンなんかでは、この映画は彼女のために作られたんじゃないかと思うほどに大きなスポットが当てられていた(前者「イッツ…」は主要メンバー6名によるスリリングな掛け合い。後者はジェニファーのソロ)。
 辛口のコメントを言えば、歌を自前で作ったのはいいとしても、黄金のモータウン・ヒットなりフィラデルフィア・ソウルなりの「本歌」を超える歌はなく、しかし、そこをばっちりと補ってみせた功績の第1がジェニファー・ハドソンの存在なのだった。
 では、第2の映画成功の要素…とまでは言えないまえでも、小味を利かせてくれたポイントといえば、白人社会へ撃って出ようとする歌手や会社役員たちのドロドロ模様が、いろんな所に散りばめられていたことだ。当時のアメリカの放送業界では常識とも言えた「ペイオラ(曲をかけさせるための賄賂)」のシーン、裏切り、ウソ、そして、ぼくが一番に的を射た発言だなーと思ったのが社長のカーティス(ジェイミー・フォックス)が、妻であり今や大スターとなったディーナ(ビヨンセー)に向かって、お前の声には深みがないんだ、と言い切るシーンだ。
 これ、ダイアナ・ロスが聴いたら激怒どころじゃ済まないんじゃない? 
 でも事実だもんね。ダイアナは、(極端に言えば)一般的な黒人シンガーのように歌にコクもなく、容姿は目だけが大きくて痩せっぽち…だからこそ、社長のベリー・ゴーディは「白人社会に受け入れられる」として彼女をフロントに据えたのだった。
 こういう歌手を商品としか思っていない(実際そういう発言がある)、「ほおお…」って言葉が挟み込まれることによって、たくさんの素敵な歌と、綺麗なお洋服の合体したような『ドリーム・ガール』は、映画らしい締まりを獲得できたのだと思います。
(おわり)

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( 2007/01/31 )

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