いわゆる「ラテン気質」とは何ぞや。底抜けの明るさか、喜怒哀楽の激しさか、貧しく厳しい現実ゆえのたくましさか、はたまた女に惚れやすい尻軽さか。
それらすべての要素を盛り込んで「ラテン的なるもの」の期待を裏切らない。
メキシコ映画『ルド and クルシ』はそんな作品だ。『天国の口、終わりの楽園。』('01年公開)のアルフォンソ・キュアロン監督と、
メキシコの人気イケメン俳優コンビ、ガエル・G・ベルナルとディエゴ・ルナ。彼らが再びタッグを組んだ、と聞けば心躍るラテン映画ファンも少なくないのではないだろうか(もちろん私も、そのミーハーなひとり)。
メキシコの片田舎にあるバナナ農園で働く兄弟、ベト(ディエゴ・ルナ)とタト(ガエル・G・ベルナル)。慎ましくも愛する家族に囲まれた暮らしだが、単純労働が続く人生の日々が今以上に「あがる」見込みはなく、週末の草サッカーが何よりの気晴らし。そんな彼らに、
メキシコ・シティでプロのサッカー選手になる千載一遇のチャンスが訪れる。うだつのあがらぬ兄弟がサッカーで掴んだ、アメリカン・ドリームならぬメキシカン・ドリーム。その顛末やいかに!?
映画は古典的ともいえるサクセス・ストーリーを縦軸に、いかにも
メキシコ的な社会風俗のエッセンスをちりばめて賑やかに進む。そのひとつは、もちろんサッカー。大都会であれよあれよとスター選手にのし上がる兄弟を取り巻く喧噪に、サッカーがいかに
メキシコの人々の心とカネを深い部分で掴んでいるか、その一端を垣間見ることができる。
そして音楽も忘れちゃいけない。ガエル・G・ベルナル演じるタトは、じつはサッカー選手よりも歌手志望、という設定で、劇中ではガエル本人が歌うノルテーニョ(
メキシコ北部の歌謡曲)のミュージック・ビデオが流れるのだが、あえて(と思いたい)コテコテにどん臭いそのアレンジ……あぁ、これぞ
メキシコのディープ・ソウル!
一方で、映画の横軸を貫くものは家族愛だ。つまり兄弟愛であり、そして何より母への愛である。サッカーで成功を手にしたダメ兄弟が故郷の母親に贈る家のアイディアを競い合うように話すシーンは、「言わずもがな」的な文化を背負う日本人から見ると少々こっ恥ずかしくなるほどストレート。親孝行という美徳を、彼らはなぜこうも臆面もなく表すことができるのか。サッカー、音楽、家族愛。ラテン・アメリカ社会の「魂の支柱」とでも言うべき要素をふんだんに含みつつ、兄弟のメキシカン・ドリームは、その頂点からお約束の崖っぷちまで一気に突っ走る。その果てで2人が見た景色とは……。陽気に、しぶとく、時にしたたかに。そんなラテン的人生論を、
メキシコきっての人気俳優2人が熱演するダメ男っぷりを楽しみつつ(特にディエゴ・ルナは秀逸!)、直球ど真ん中で感じてみるのがオススメだ。
そしてラスト・シーンで、主人公の兄弟をスカウトした張本人でありストーリーの進行役も兼ねる男、通称「バトゥータ」が見せる一瞬の表情。これに観客は思わずニヤリとさせられる。キュアロン監督、最後のカットで見せた遊び心。この茶目っ気もまた、ラテン的と言えるのかもしれない。
(文・田中真理)
*『ルドandクルシ』2010年2月20日(土)から、シネマライズ、新宿バルト9ほか、全国順次ロードショー
公式サイト:
http://www.rudo-movie.com/
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