ハーレム・ルネッサンスを捉えた大作『Rhapsodies In Black』
(Rhino R2-79874)
 いつも素晴らしい企画アルバムを作るライノ・レコードが、アメリカで2000年11月に発売したCD4枚組ボックス・セット。日本では9000円ほどと値の張る買い物だが、広く黒人音楽に関心を持つ人であれば手にしたいアルバムである。
 『Rhapsodies In Black: Music And Words From The Harlem Renaissance 』は、1920年代にニューヨークのハーレムを中心に花咲いた黒人による文化興隆を、音楽を中心にまとめたものである。
 4枚のCDに収録されているのは、1918年から1935年までのビンテージ録音と新しく録音された詩の朗読、合計85トラックである。
 クィンシー・ジョーンズが、ラングストン・ヒューズの「The Negro Speaks Of Rivers」を朗読するのがオープニング。続いて、デューク・エリントン楽団の「Cotton Club Stomp」と続いていく。
ブックレットの表紙
「ハーレム・ルネッサンス」は、第1次世界大戦が終了し、人種偏見の少ないヨーロッパの空気を吸った多くの黒人兵がニューヨークへ帰還した1910年代末頃から、急激に芽を吹いたと言われている。
 もちろん、このルネッサンスを何年に誰がと特定することは各識者によって異なる。文学者のラングストン・ヒューズにとって、その始まりはノーブル・シスルNoble Sissleとユービー・ブレイクEubie Blakeによるオール・ブラック・キャストのブロードウェイ「シャッファロングShuffle Along」(21年)や「ラニン・ワイルドRunnin' Wild」(23年)だったようである。
 このようなヒューズに代表される文学、そして絵画、舞台、音楽など、アメリカ最大の都市に住む黒人インテリ層を中心として、この時代に自由の気風に溢れた各種文芸が花咲いたのだった。日本でも知られている(黒人が客として入ることができない黒人街の黒人クラブ)「コットン・クラブ」の盛況も、この時代の象徴の一つである。
 白人の名士たちがこぞって出かけたという「コットン・クラブ」には、キャブ・キャロウェイデューク・エリントンらが出演していたが、このような黒人と白人の出会いによって、ジョージ・ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」といった名作が生まれた。もちろん、本アルバムの題名も、ガーシュインのそれにひっかけたものである。
 以下が、トラック・リストである(抜粋)。(*)印までが朗読である。

The Negro Speaks Of Rivers (Poem by Langston Hughes) - Quincy Jones
If We Must Die (Poem by Claude McKay) - Ice-T
Sonnet To A Negro In Harlem (Poem by Helene Johnson) - Angela Bassett
Letter From Aaron Douglas To Langston Hughes (Excerpt) - Wally “Famous” Amos
The Weary Blues (Poem by Langston Hughes) - Branford Marsalis
Cotton Club Stomp - Duke Ellington & His Cotton Club Orchestra
The Harlem Strut - James P. Johnson
Brother Low Down - Bert Williams
There’ll Be Some Changes Made - Ethel Waters & Her Jazz Masters
Sounds Of Africa - Eubie Blake
Sweet Man O’ Mine - Mamie Smith & Her Jazz Band
Blues Ain’t Nothin Else But! - Ida Cox
Kansas City Man Blues - Clarence Williams’ Blue Five
Indianola - Wilbur C. Sweatman’s Original Jazz Band
Hard Hearted Hannah - Rosa Henderson
St. Louis Blues - Bessie Smith
 収録された当時のレコーディングは、ジャズ、ブルースと様々だが、ルネッサンス期のブラック・ミュージックの代表的な曲ばかりだから、そのエネルギーたるや素晴らしいものがある。
 また、初めにも触れたように、音楽の合間にラングストン・ヒューズクロード・マッケイらの詩を現代のアイス・Tらが朗読することで、現在と80年も昔の時代とを結びつけようとする試みも興味深い。
 約100ページのブックレットも、年表や絵画の紹介、社会的背景など、この文化全体を捉えなおそうとしているのも意義深く、「ハーレム・ルネッサンス」は、当時の一般の黒人たちにとっては耳慣れない言葉だった…つまり、黒人全体の文化ではなかった…と的確に指摘しているのも重要である。ただし絵画の紹介となると、紙面のスペースが小さすぎて、迫力に欠けることは否めない。
 とまれ、企画プロデューサーであるショーン・エイモスShawn Amosによる労作であることは間違いなく、ニューヨーク・ハーレムに集まった黒人たちが、1929年の「大恐慌」に至るまで、まがりなりにも自由な空気の下、歴史的な文芸を行なったことがよくわかるボックス・セットに仕上がっている。

Amazon.co.jp−Rhapsodies in Black: Music and Words From the Harlem Renaissance

( 2001/03/06 )

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