マイケル・ジャクソンのことなら、今やこの人、西寺郷太(ノーナ・リーヴス)によるMJ本が発売された。「なぜマイケルは誤解されたか」というキャッチコピーのもと、ずっとファンだった西寺郷太らしく「本当のマイケルを知ってほしい!」という情熱にあふれた内容になっている。
ポップ・ミュージックの記録をいくつも塗り替えただけでなく、スキャンダルやトラブルに囲まれたマイケルは常に好奇の視線を浴びた。西寺はそんな世紀のスターの短い人生を、出発点であるちびっ子の時代から整理しなおし、マイケルがどれほどに優れたアーティストであったかを改めて訴えようとしている。
3章までは彼がスーパースターとして頂点に立った時までの歴史を追う。マイケルだけではなく、兄弟姉妹のそれぞれの個性や活動にもきちんと目配せを効かせているのが西寺らしいといえるだろう。ジャクソン5からジャクソンズへ至り、そしてマイケルがソロへと移行してゆく時の流れの中で、一致団結していたようにも思えた家族の思いはバラバラになっていく。ショービジネスの激流をトップ・ランナーとして泳ぎ切るためには、いかに特別な才覚と知性を要求されるのかがここに見えてくる。
西寺が、おそらく一番に精力を傾けたと思われるのが4章における「少年虐待疑惑」の検証である。幾つもの珍しい文献、取材を重ねた上で書かれたこの章は、我々日本の情報発信者も戒めとして読んでおかなければいけない事実がいくつも登場する。官憲もメディアも「きっとそうだろう」との予見、予断でコトを進め、つじつまが合わなくなるとその事実を隠そうとする。果たして「虐待」はあったのか? 西寺は怒りを込めて書く…
「膨大なヴィデオ、新聞、雑誌など、証拠は残っている。言い逃れは出来ない。情報を発信する側のモラルは保たれたのか? 本当にそれらの報道は正しかったのだろうか?
今こそ、再検証の時である」(4章の結びの文章)
マイケルが、肌の色素が抜けていく病気「尋常性白斑症(じんじょうせいはくはんしょう)」であったことが、取調べを行なった「警察側の医師からも正式に診断された」(181ページ)ことにも触れられている。
5章は、「THIS IS IT」ツアーとその映像を通しての真のマイケル像に迫る。
残念なのは、例えば顔のカタチが、若いころからどんどん変っていったことなどに表われるマイケルの心の深層をもっとえぐって欲しかった。ぼくはそれを「黒人と差別」の問題と見るが…これについて、西寺郷太ならではの意見が読みたかった。
(文・藤田正)
*本誌に転載した
「マイケル ・ ジャクソン その音楽が遺したものは」には、生前のマイケルに付きまとった、子どもに対する虐待疑惑、白い肌、整形…について触れられています。4月6日、これに関して、読者である川崎徹氏から訂正を求めるメールを頂戴しました。ありがとうございます。西寺郷太氏の著作と併せて読んでいただければと思います。(藤田)
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