アイヌ音楽は関心があっても、なかなか簡単に聞くことができなかった。2001年5月20日に発売されたCD『イフンケ』(写真)は、アイヌの音楽文化の豊かさを伝えてくれる秀作である。
歌とムックリ(口琴)を担当する
安東ウメ子は、アイヌの歌(ウポポ)やアイヌ語の講師として活動する人物。アルバムは代表的伝承者による本格的なアイヌ音楽のCDである。
収録されているのは、菱の実採りの歌「ペカンベ ウク」、子守り唄「イフンケ」、熊送りの時に歌う「イヨマンテ ウポポ」、酒造りの歌「ヘルトゥン ルトゥン」ほか全16曲。トンコリ(アイヌの弦楽器)やムックリなど、ごくわずかな伴奏で、実に柔らかな音楽世界が展開される。
安東は、まったく気負いのない歌い方で、するりと人の心をつかんでしまうような力をもつシンガーである。伝統歌だけでなく、長老の昔話を安東が歌にした「バッタキ」(イナゴの大群の歌)などもあり、オキによるサウンド・プロダクションもふくめ、単なる「民俗音楽アルバム」ではない幅広い音楽性を持ったアルバムである。