タンゴの鬼才、アストル・ピアソラの没後10年を記念して、旧作の復刻や企画オムニバスCDが発売されている。
ピアソラは1921年、アルゼンチンに生まれたバンドネオン奏者で、46年に初めての自己の楽団を結成している。50年代にはクラシックの作曲家を目指すが、その挫折を乗り越えて再び
タンゴの世界に戻った。そして50年代半ばから、
タンゴの新しい地平を開拓し世界的な作曲家、演奏家として知られるようになっていった。
ピアソラが亡くなったのは1992年のことである。
『ピアソラの愛し方』(ソニー)は、バンドネオン奏者の小松亮太が選曲したピアソラ作品集で、ヨーヨー・マほか様々なジャンルの一流ミュージシャンが彼の代表作を演奏している。
現在のピアソラ人気を決定付けたヨーヨー・マのアルバムからは「リベル
タンゴ」や「フガータ」などが選ばれている。「追憶の
タンゴ」は、生前のピアソラの録音にヨーヨー・マがチェロを重ねた作品である。
このほか、エマニュエル・アックス&パブロ・シーグレルの有名な作品集から「アディオス・ノニーノ」「天使のミロンガ」などがピックアップされている。
一時はクラシックを本気で目指そうと考えたピアソラだけに、
タンゴらしい情熱あふれるドラマ性は流麗に整理され、クラック的なセンスとぴったりマッチしている。
しかしここで聴ける彼の主要作品が、その生前は、今我々が思っているほどには評価されなかった。これは、人間の耳とはけっこう保守的であることの証明なのかもしれない。