フラメンコ・ギターの旗手、トマティートのギターが冴えわたった
Universal Classic
 4月11日、東京でトマティートのコンサートが開かれた。1958年にアルメリアに生まれたロマ(ジプシー)のトマティートは、現在、最も注目されるフラメンコ・ギタリストと言っていいだろう。
 今回は、自分のバンドを従えての初めての来日で、1部がピアソラに捧げられたパート、2部がフラメンコと構成され、どちらもトマティートならではのすさまじい技量で観客を沸かせた。
 師であったカマローン・デ・ラ・イスラが亡くなった2日後にピアソラがこの世を去ったこともあり、トマティートは何か彼に運命的なものを感じているようだ。2本のギターとバイオリンによる1部の「トマティートによるピアソラ」は、バンドネオンを加えたタンゴの標準編成とはまるで異なる彼独自のセットで、ピアソラの代表曲「アディオス・ノニーノ」など5曲を聴かせた。
 持ち前の技巧に走り過ぎるきらいのあった演奏の中で、歌のイメージと演奏がぴったりと重なったのが「ベラーノ・ポルテーニョ(ブエノスアイレスの夏)」だった。木立や葉が風に誘われ揺れ踊っているような情景を、トマティートは素晴らしい独創力で描いてみせた。
(写真は、今回のライブの演奏曲目の多くが収録されている『パセオ・デ・ロス・カスターニョス』)
Universal Int'l
 1部のピアソラ曲集は、たとえて言うならば歌のイメージを絵画的に浮きあがらせるような手法だった。フラメンコの手法を用いながらも、フラメンコ的な、胸をえぐるような「情念の世界」はここでは聴くことはできず、演奏は激しくとも絵画を見ているような趣があった。しかしこれは失敗ではなく、手法の問題であって、高い技術を持つ彼のような存在でなくては、できない1部には違いない。
 2部はお得意のフラメンコだが、やはり歌手ではなく演奏者(ギタリスト)の公演であるために、ボーカルを二番手にした構成となる。歌を中心とする典型的なフラメンコの味わいではなく、トマティートのライブは(CDでも聴けるように)あくまでギターをセンターに置き各楽器のやりとり(インタープレイ)が大きなポイントなのである。
 だがケレン味あふれる彼のプレイは、バイオリン、パーカッションそしてパルマ(手拍子)らと混ざりあうことで、恐ろしいほどの切れ味を見せた。すべての演奏がエッジ鋭く、リズムが止まる時も、意識的に佇む時も、すべてカミソリのような感性が空間を支配しているのだった。「カミニージョ・ビエーホ」などは、繰り返される扇情的リズムの中から、死に急ぐような黒衣の男たちの群れが舞台を横切っていったようだった。(2003年4月11日、新国立劇場中劇場)
*写真は、ピアソラの『ブエノスアイレスの夏』。

Beats21推薦CD(1)=『パセオ・デ・ロス・カスターニョス』
Beats21推薦CD(2)=『ブエノスアイレスの夏〜ピアソラ・レア・トラックス/アストル・ピアソラ』
Beats21推薦DVD=『ベンゴ』(トマティートを世界に知らしめた映画)

( 2003/04/12 )

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