1部のピアソラ曲集は、たとえて言うならば歌のイメージを絵画的に浮きあがらせるような手法だった。フラメンコの手法を用いながらも、フラメンコ的な、胸をえぐるような「情念の世界」はここでは聴くことはできず、演奏は激しくとも絵画を見ているような趣があった。しかしこれは失敗ではなく、手法の問題であって、高い技術を持つ彼のような存在でなくては、できない1部には違いない。
2部はお得意のフラメンコだが、やはり歌手ではなく演奏者(ギタリスト)の公演であるために、ボーカルを二番手にした構成となる。歌を中心とする典型的なフラメンコの味わいではなく、トマティートのライブは(CDでも聴けるように)あくまでギターをセンターに置き各楽器のやりとり(インタープレイ)が大きなポイントなのである。
だがケレン味あふれる彼のプレイは、バイオリン、パーカッションそしてパルマ(手拍子)らと混ざりあうことで、恐ろしいほどの切れ味を見せた。すべての演奏がエッジ鋭く、リズムが止まる時も、意識的に佇む時も、すべてカミソリのような感性が空間を支配しているのだった。「カミニージョ・ビエーホ」などは、繰り返される扇情的リズムの中から、死に急ぐような黒衣の男たちの群れが舞台を横切っていったようだった。(2003年4月11日、新国立劇場中劇場)
*写真は、ピアソラの『ブエノスアイレスの夏』。
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