この3月に、若手
ジャズ・ピアニストとして、一躍売れっ子になった上原ひろみと話す機会があった。
私はその時、彼女に対して、(誉め言葉として)メディアで言われるほどには音楽性は
ジャズ一辺倒じゃないよね、といった話をした。彼女も「そうです」という返事をしていたが、話を大先輩である秋吉敏子に変えると、上原の口から次々と秋吉に対する絶賛の言葉があふれた。いわく、あの年齢なのに若い自分がかなわないぐらい創造意欲に燃えている、私も秋吉さんのように将来はオーケストラを持ちたい、といった率直な意見だった。
30年続いたオーケストラとしては解散ライブとなった新作『Last Live in Blue Note Tokyo』も、上原が言うひょうな気迫あふれる秋吉ワールドが聴ける。驚くのはその解散の理由で、もともと自分はピアニストなのだから、30年という区切りをきっかけとして改めてピアノの修行に入るのだ、ということなのだ。作曲ばかりに力を入れてきたから、ピアニストとしての腕が錆びついている!と。
確かに1曲目の「Lady Liberty」には、そういう部分、なきにしもあらずだが、ビシッと統率の取れたオーケストラ陣の演奏、そして秋吉の作家としての力がそれを救っている。そして、2曲目「The Village」から、とてもどっしりとして、かつ力のこもったプレイが展開されてゆく。
40年代
ジャズの息吹から、ミンガス的な重戦車のようなビート感、そしてアバンギャルド的なプレイと、秋吉の作風には彼女が体験してきた
ジャズ・ミュージックのエッセンスが実に自然体に表出しているのがいい。「木更津甚句」からアイデアを得た「The Village」も、改めて面白い作風だと思った。
ソロを取るのは秋吉敏子(p)はもちろん、長年のパートナーであるル−・タバキン(fl,ts)、マイク・ポネーラ(tp)。4曲目の「Hiroko's Delight」、5曲目の「Chasing After Love」には、ゲストとして日野皓正(tp)が加わっている。
2003年11月の録音。DVDも同時発売されている。
(藤田正)
Amazon.co.jp-『Last Live in Blue Note Tokyo』