ディアンジェロやエリカ・バドゥらと並ぶR&Bの個性派、マックスウェルの新作『NOW』(ソニー/写真)が、ようやく発売された(2001年8月18日)。
シャーデーのスチュアート・マシューマン、マービン・ゲイらのサポートとして70年代に大活躍したワー・ワー・ワトソンらがバックアップするという従来のスタイルに変化はない。『NOW』は98年の『エンブリア』に続く3枚目のスタジオ録音となる。
そのファルセットがプリンス、緩やかなファンク・ビートで迫るセクシーなスタイルがマービン・ゲイ…と言われるマックスウェルである。確かに、ケイト・ブッシュのカバー「This Woman's Work」(出産をテーマにした歌)にしてもファルセットから突然、男っぽい声に返るところなどモロにプリンスだ。(ただし、全体のコンセプトはトニ・トニ・トニ!Tony! Toni! Tone!にアイデアを借りた、とも言えるが)
そして、この歌が終わればラストの「Now/At The Party」となるが、ぬるぬるっとしたファンク・ベースとギターの絡みだけ聞いていても、これからマービンや同時代のアイザック・ヘイズがうたい出してもおかしくないムードではある。
マックスウェルは1973年、ニューヨーク(ブルックリン)の生まれである。
プエルトリコ系のカリビアン・ブラックで、一般的にいうアフリカン・アメリカンの環境とは異なる場所の出身だ。その音楽性にはラテン〜カリブの要素を見つけることはできないものの、マックスウェルの特性の一つである、適度に軽くドロドロの世界に入り込まないソウル・ミュージックは、ニューヨーク・ラテン系ソウルの歴史と無関係でなはい。
マックスウェルの『NOW』は、そんなニューヨークの下町の雰囲気を下敷きに、先ほども触れたような一時代前のソウル・エッセンスをレトロに甦らせる。『NOW』に収録された曲の中でも印象的な一つである「NOONE(ノーワン)」は、60年代ではなく、70年代=ディスコ時代のスモーキ・ロビンソンの顔すら見えてくるのが面白い。
ソウルは80年あたりを境に、打ち込みビートが全盛となるが、マックスウェルはその直前の「バンド・スタイルの残像」を美しく浮き上がらせる。
それは聞き手にとって穏やかな「懐かしさ」であり、その懐かしさは聞き進むうちに「リラクゼイション」へと替わる。そしてそのサウンド上に、肝心カナメである彼のエロティックなボーカルが跨(またが)る時、マックスウェルでしか作り得ない「ベッドの上での音楽マッサージ」が完成することとなる。
(おわり)