まったく無名のシンガーソング・ライターを紹介しよう。
奄美出身の築秋雄(ちく・あきお)である。彼は東京のライブ・ハウスで地道に活動を続ける。長い引きこもりを克服し、彼は今、生きる情熱を獲得した。
Beats21が紹介する、築秋雄とは…。
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Akio Chiku & ALBATOROSS
/ The Return Of Ulysses 2000円(税込)
文・藤田正(『週刊金曜日』2006-02-24号)
奄美出身のシンガー・ソングライター、築秋雄。まだ青っぽい歌声の中に、燃え上がる何かが見える。18歳で上京し、その後、10年ほど引きこもりの生活を続けたそうだが、だからこそ彼の「自由」という言葉には深い説得力がある。自からがトビラを開け、光を引き入れることができたからこその、人の新生を記す1枚。
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空に叫びながら、2006年のフラワー・ムーブメント……築秋雄
文・藤田正(チラシ用推薦文)
「プライマル・スクリーム」という精神治療がある。ジョン・レノン&プラスティック・オノ・バンドによるアルバム『ジョンの魂』…この作品を、不朽のものとした背景に、ヒトが抱える苦悩の根源をむき出しにし、吐き出させるセラピーがあった。生前のジョンの、あの凄まじい声、cry、のことだ。ぼくは築君のステージを見て、彼も2006年にcryしているんだと思った。そう「あの季節」の「あの音楽」が持っていた、cry。それは歌で、君自身やあなたそのものを探す心の旅のこと。築君の声とアコギと、首からぶら下げたブルース・ハープには、その叫びがあった。1960年代も終わりのころだ。アメリカの学生たちの間からフラワー・ムーブメントが起こって、彼らのことをフラワー・チルドレンと呼んだのだが、築君の、マッシュルームをブワッと膨らませたような頭髪や、汗をたらしかき鳴らすギターの熱の、その昇りぐあいを注視していると、この人って、お母さんを求めて泣いたジョンや、地上に生まれたことの意味を歌に聴こうとした彼ら青年たちの、何だか化身のように思えてくる。死が直前に迫った人から、枕元で歌うことを求められたという築自作の「自由の歌」なんて、言葉を失う。自由ってなんだろう。生きることって何? 彼は、心にcryしながら、空に問いかけるのだ…あの、かつてのフラワーだった奴らのように。
*CD購入--セントラル楽器(The Home of Amami Music)
http://www.simauta.net
*ライブ情報ほか--築秋雄ホームページ
http://www.ulysses-records.com