ウクレレ奏者としてソロ活動も行なっているサザンの関口和之(Captain Mook)が新作を発売した(2001年10月24日)。
関口和之&砂山オールスターズによる『World Hits!? Of Southern All Stars』(ビクター)は、サザンのヒットを世界各国のビート、アレンジで楽しもうという意欲作。サザンのタイシタ・レーベルによる初めてのサザンのカバー集でもある。
以下は、収録曲の解説(プレス・リリースから)
(1)涙のキッス(a cappella)
旅は、今あなたがいるその場所から、あなただけのために始まる。入ってくるアンビエンスはCAPTAIN MOOKが自らオアフ島へ赴いて録音してきたもの。よく聴けば、前作「口笛とウクレレ」のエンディング曲「慕情」の中で使われているものと同じだ。前作からこの旅は継続しているかのように。
(2)ミス・ブランニュー・デイ
まず、カリブに浮かぶレゲエ・アイランドに思いを馳せてみる。首都キングストン。1950〜60年代、合衆国文化の多大な影響のもと、マイアミからの人、そして電波によって届けられたジャズ、ブルース、R&Bなどの流行音楽と島のカリプソ、メント等が融合して、レゲエの基本となるスカが生まれた場所。その地でサザン・メロディとレゲエの融合を試みる。通常ギターで行われる2拍4拍の裏打ちをウクレレに持ち替え、ロック・ステディーのアプローチを施すなどを経て、レゲエ・マナーに乗った「ミス・ブランニュー・デイ」が生まれた。旬の?80年代への敬意として、メロディはヴォコーダーで加工。
(3)YaYa(あの時代を忘れない)
CAPTAIN MOOK縁の地、太平洋、ビッグ・アイランドに思いは巡る。スタイルはあくまでトラディショナル。アレンジはLittle Creatures、そしてDouble Famousとしての活動の他、ハワイで「島の人」という意のKama Aina名義でソロ・ユニット活動を展開する青柳拓次による。ハワイのスラック・キー・ギター、パーカッション、シロフォン(木琴)等、あらゆる楽器の演奏は彼によるもの。その他、彼の呼び掛けのもと、同じくDouble Famousの栗林慧が自作の8弦ウクレレで参加の他、ベースにはジャズ、クラシックを通過したニュー・ウェーブ・バンドacoustic dub messengersの高橋祐治が参加、ハワイ島を囲んだ夢のセッションが実現した。ビッグ・アイランドの名に相応しい、あらゆるものを包み込む、大きく、やさしい「YaYa」が完成した。
(4)HOTEL PACIFIC
再びカリブ海に戻ろう。ヘミングウェイやゲバラも愛したキューバ。アフリカからやって来たリズムとヨーロッパのメロディがクロスオーバーした場所。キューバの基本は混ざり合うということ。ギターを持って来たアンダルシア人、そこにアフリカ人、ハイチ革命から逃げて来たフランス人……混ざり合う事で音はメロウにまろやかになってゆく。そこにサザン・メロディを注いでみたら……(後略)
(5)愛の言霊
カリブ海を南へ。南米大陸最北の地、コロンビアを想像してみよう。古くから黄金郷(エル・ドラード)伝説の伝わる地だ。ここは豊かさと貧しさ、支配と被支配、寛容と執念深さといった相反するものが長い時間をかけて融合し、ひとつに収まろうとする南米大陸が象徴する矛盾を、特に顕著に抱えるゆえの歴史を持つ。メレンゲ、ボンバといった伝統音楽とハウス・ミュージックという極めて機械的なビート、一見相反する音楽を融合することにより、Spiritual Messageの強い「愛の言霊」が生まれた。(後略)
(6)涙のキッス
さらに南東へイマジネーションは向かう。日本から最も遠い都市、リオデジャネイロ。50年代末、コパカバーナ地区にあるナラ・レオンの小さなサロンでは、ロベルト・メネスカル、カルロス・リラ、ロナルド・ボスコリらが出入りし、それまでのショーロ〜サンバの潮流と一線を画した新しい音楽を作ろうとしていた。そこにひょっこりと現れた1人の男の登場をもって、ブラジル音楽に新しい風が吹きはじめた。「ぼく、ジョアン・ジルベルト」。Bossa Novaの夜明け。
柳満夫の手によることの地のビートが凝縮された機械的なループに、青柳拓次のギターを重ねることで未来世紀のボサノバ的アプローチをする。後半入ってくるとびきり切ないフルートはサザンでもお馴染みの山本拓夫による。(後略)
(7)みんなのうた
南米大陸を一気に北上。パナマ海峡を超え、合衆国に入る。西海岸沿いにさらに北を目指す。黄金の州、夢のカリフォルニア。このビーチに立つ波はサーファーのハートを燃え上がらせる。そしてその横にはカリフォルニア(サーファー)ガール。ブライアン・ウィルソンが想いを馳せて創作活動をしたワンダーランド。
音楽職人、高野寛のアレンジのもと、ホットロッド・スタイルのコラースワークの上に、「グッド・バイブレーション」で用いられたようなメロディ楽器としてのテルミンやアナログ・リバーブといった「ペット・サウンズ」〜「スマイル」的アプローチを施した「みんなのうた」が完成。その幻想を現実に連れ戻すカリフォルニア・ガールズを担うのは、マーティン・デニーとも共演済みのペティブーカ(from HAWAII??)。
(8)希望の轍
緯度を大きく変えず、東海岸へ抜ける。メキシコ湾に面するミシシッピへ。その名前はアルゴンキン系諸語で「大きな河」を意味する。カントリー、ブルースそして20〜30年代に流行したジャグ・バンド。古き良きアメリカ。レコーディングは一発録り。これからレコード店になる下北沢の一室にてアナログ・ハーフ・デッキで行われた。(後略)
(9)南たいへいよ音頭(Caribbean version)
メキシコ湾を離れ、大西洋を西インド諸島に沿って南へ下る。その最南端トリニダード。カリブ海諸国唯一の産油国。石油産業の本格化に伴い、周辺諸国から労働力と同時にそれぞれの音楽が流入し、カリプソが産まれた。また30年代には石油を入れるドラム缶をすり鉢状に加工して調律し、スチール・パンが発祥した場所でもある。
この曲はサザンの6枚目のアルバム「綺麗」(83年)収録の関口和之作詞・作曲・ヴォーカルの曲。もともと「アロハ・スピリット」に通ずるような普遍的快楽主義をテーマとしていたが、今回新たに詞もリメイク。CAPTAIN MOOK MUSIC WORKSのほか、リトル・テンポのレコーディング、ライブ等でもお馴染みの田村玄一のスチール・パンを全編に散りばめた、2月のトリニダードのカーニバルをイメージさせるニュー・ウェイブ〜ファンカ・ラティーナの流れを汲むカリブの音頭になった。
(10)Big Star Blues(ビッグ・スターの悲劇)
一気に太平洋を横断。沖縄の西に浮かぶエメラルドの海に囲まれるダイバーの聖地、慶良間諸島を想像する。琉球三線とウクレレと指笛とピアノ。強いリズムは必要としない和的アンビエント。この曲に悲劇は無い。
(11)真夏の果実
大西洋ギニア湾、赤道直下に位置する通年真夏のカメルーンはどうだろう。アフリカ最古の先住民と言われるピグミー族を含む約250の部族が居住する、アフリカの中でも最も多様な民族で構成される。ピグミーが伝統的に独自の和声合唱の様式を豊かに発達させているように、アフリカの伝統的な和声、リズムは部族単位で儀礼的役割を担うなど人生と密接に結びつき、多種多様だ。
通称親指ピアノと呼ばれる、ほぼアフリカ全土に分布するカリンバを都市型ブレイク・ビーツに乗せる。そこにjew's harp(口琴)による倍音を重ねることで想像力はより遠くまで機能する。前半のポエッツ、ヴォーカルはMAHYA(from SOUL LOVERS)が担当。彼女の発する声には、常に美しい倍音が絡まっている。スピリチュアルな、常夏の国の「真夏の果実」が出来上がった。
(12)クリスマス・ラブ(涙のあとには白い雪が降る)
大西洋を北へ。かつて、民族的アイデンティティゆえ、音楽上の「民族の境界」も強固に持ち、積極的に他と交わる事のなかったアイルランドを夢想する。大陸を追われたケルト民族は、ヨーロッパの西の果ての島国、アイルランドに辿り着く。文字を持たないケルト文化の言葉や音楽は、口と耳によって伝えられて来た。伝統的なケルト音楽は、アイリッシュ・ハープやバウロンなど独自の民族楽器とリズムを用いて演奏され、今日まで受け継がれている。アレンジ、演奏はすべて青柳拓次による。ブズーキ、コンサーティーナ、トイ・ピアノ、そしてウクレレという最小限のアンサンブルで演奏される「クリスマス・ラブ」は白い天使が舞うように美しい。
(13)忘れられたBIG WAVE〜Outro
緯度を下げ、ジブラルタル海峡より地中海に入る。この夢想旅行の最終目的地、地中海に浮かぶトラヴェラーとコスモポリタンの楽園、イビサ島。この島はふたつの顔を持つ。豊かな自然と美しい海に恵まれた穏やかな楽園としての顔。そしてもうひとつは島のサンセット・サイド、サン・アントニオ周辺のチル・アウト〜アンビエント・ミュージックが止むことのないクレイジーできらびやかな、音楽の神が与えた究極の楽園としての顔。そのビーチにあるサンセット・カフェ、Cafe del Marで、沈む夕陽を前に、瞳を閉じてBIG WAVEを待とう。音によってイマジネーションをより遠くへ働きかける……やがて空から宇宙船が降りてくる。それに乗ると静かにそれは発進し、大気圏を出て宇宙に飛び立つ。もっと遠くまで。夢想旅行はプロローグのようにエピローグを迎える。(後略)
(14)TUNAMI(souvenir)
架空の旅行はおしまい。最後に、レコーディング中にサンディエゴへ本当に旅行に行ってしまったCAPTAIN MOOKのおみやげをプレゼント。レコーディングは海辺のホテルのテラスでマイク一本、デッキひとつでのセルフ・レコーディング。海鳥の啼く声、ちょっと遠くの波の音、行き交う車の音……。サンディエゴの空間を切り取った、ちょっといいおみやげ。
BON RETOUR!!