セザリア・エボラCesaria Evoraは、西アフリカはセネガル沖にある島国、カーボ・ベルデ出身のシンガーである。1941年生まれだから、2001年で60歳。長いキャリアを持つ女性だが、アルバムを作り世界に知られるようになったのは、まだ10年ほどである。
酒とタバコを好み、カフェでグラスを揺らしながら歌う。時に、女たちを連れ立って浜辺に繰り出し、宴を開く「裸足の歌姫」。
その柔らかな歌声は、どこでも、常に場の主役となる。
こんな「伝説」が、パリを中心にして広まり、ヨーロッパで数十万枚を売り上げるスター・シンガーとなったのがセザリア・エボラだった。
通算8枚目となる新作『遥かなるサン・ヴィセンテ』(ソニー/2001年10月24日発売)は、これまでの作品の中で最も規模の大きなレコーディングである。
録音が行われたのは、現在の彼女が活動の拠点としているパリを中心にして、リオ、ハバナの3ヶ所である。
共演者には、ブラジルのカエターノ・ベローゾ、
ジャケス・モレレンバウム、アメリカの
ボニー・レイット、キューバのチューチョ・バルデス、オルケスタ・アラゴーンといった高名な人たち・バンドの名前が見える。
カーボ・ベルデは、かつて宗主国だったポルトガルを中心としたヨーロッパの文化とアフリカ系の文化が交じりあう場所であり、セザリアに代表される「モルナ」という当地の音楽はこの特色を的確に反映している。今回のレコーディングは、そんなカーボ・ベルデと同様のミックス・カルチャーを経験してきたブラジルやキューバの「親戚たち」が、裸足のビッグ・ママのフトコロで揺られている、というイメージである。
ある歌はキューバのダンソーンのように、ある歌はブラジルのショーロ的にと、それぞれがゆったりと流れて行く。
どの歌も先を急ぐことはしない。そしてどの歌にも深い「センティミエント」がある。
ボニー・レイットとデュエットした切ないバラード「クレプスキュラー・ソリダン〜黄昏の孤独」も、とてもいい味わいだ。
Amazon.co.jp−セザリア・エボラ『遥かなるサン・ヴィセンテ』