リオで9年前に世界環境会議がひらかれ、ジョビンも参加した。街にはゴミが落ちてない。ニューヨークとは大違い。17キロに及ぶビーチにもゴミが少ない。17年前に初めてここへ来た時、朝早くオレンジ色の制服を着た清掃人たちが、広大なビーチを端から端まで並んでゆっくりと清掃していた姿を思い出す。さすがに「奇跡の環境都市」クリチバのあるブラジルだ。年々人口が増加する街をおしのけて屹立する岩山の自然も守られているように見える。と同時に、今でもアマゾンの伐採は続いている。ジョビンは、「神が、こうもあっけなくアマゾンで三百万の樹木を打ち倒させているのは、きっとどこか別の場所で、それらの樹木を再生させているからだろう。そこにはきっと、猿がいれば花もあり、きれいな水が流れているに違いない。僕はね、死んだら、そこへ行くんだ」と言っている。
録音している最中、ジョビン宅の裏庭に突然亀が姿を現わす。亀は、明治生まれの知人の祖父のように意志が強そうに見えた。あれはジョビンの祖父、不可知論者のアゾールの化身だったのか。
註1.このCDのリリースの予定はまだたっていない。秋ごろには出せるといいんだが。
註2.ジョビンの妹、エレーナの書いた伝記「アントニオ・カルロス・ジョビン」(青土社)は必読書だ。
坂本龍一