「
パレスチナの幼馴染みの二人の若者が自爆
テロに向かう48時間」とプレス資料にある。第78回アカデミー賞授賞式の前には、「自爆攻撃により亡くなったイスラエルの遺族たちから、
テロを支持する映画」だとの理由でノミネートをやめるよう署名運動が起きたともあった(同賞・外国語映画部門ノミネート作品)。だが『パラダイス・ナウ』は、支持するもしないもなく、冷静に
パレスチナの今を描く「だけ」を試みた映画であろうと思う。そこが「恐ろしく」「すごい」。ハニ・アブ・アサド監督(
パレスチナ人)の細かな心理描写、これに重なる荒れ果てたヨルダン西岸地区の風景。主人公である親友二人の立ち居振る舞い、視線…これを演技というのか、あまりにリアルでぼくにはわからないが…彼らが目撃する圧倒的に豊かな敵地「テルアビブ」。自爆
テロの主導者たちと「選ばれし者たち」の間に見え隠れするゾッとするような感情の落差。アラブなり
パレスチナなりにさほどの知識を持たないぼくであっても、二人の存在の悲しさに思わず声を上げそうになるシーンが散りばめられた作品だった。2007年3月10日、東京都写真美術館ほかでロードショウ。
(文・藤田正)
『パラダイス・ナウ』@アップリンク
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