戦後60年の日本と沖縄を考えるために……ユープラ、目取真俊、小林よしのり
M&Iカンパニー
「戦後60年」の2005年。さまざまな書籍が発刊され、いろいろな行事が8月15日を頂点に行なわれている。
 戦後の日本…沖縄式に言えばヤマト(本土)の、その発展の礎(いしずえ)に、あるいは「捨て石」になったのが沖縄だった。沖縄を知ること、それはすなわち日本国の過去と未来を見ることでもある。この7月から8月にかけて、意見の異なる、しかしどれもユニークな「沖縄論」が世に出た。レゲエDJ、U-DOU & PLATYのデビュー・アルバム(写真)、そしてゴー宣の小林よしのりと、芥川賞作家の目取真俊(めどるましゅん)の書籍である。
                  
 U-DOU & PLATY(略してユープラ)のアルバム『Vibes UP』は、古謝美佐子の新作シングル「黒い雨」と同じく、2005年の沖縄音楽で欠かすことのできない作品である。
 若いウチナーンチュの今を描いて、これほど「ライブ&ダイレクト」な作品はなかったように思う。語り、歌うレゲエDJの特色を活かしながら、二人は「自分たちの実際の体験」をもとに物語ることを心がけている、と言う。それも今のウチナー&ヤマト口で。
 彼らの共通語と沖縄言葉のミックスは、ある時は深夜のコザのクラブにいるようであり、時に北谷のビーチパーティに紛れ込んだみたいでもある。
 ユープラは、島唄系の人たちを除けば歌の中に「ウチナー口を普通に使うことは、自分たちが初めてじゃないか」と語る。なぜなら、他の人たちの多くは「やっぱり東京などヤマトを意識しているからじゃないですか?」ということだった。
 自然体で、普段着の沖縄の泣き笑いを描くユープラ。たとえば、嘉手苅林昌の有名な「時代の流れ」から始まる「クユイヌハナシ」(今宵の話/彼らの出世作)では、
「美ら島ウチナーと言うけれどもオイ、なぜかしらこの島は矛盾が多い、みなが愛する島に捨てるなゴミ、本島の美ら島になるのは遠い」
「基地があり続けるのはマジいけない、15年なんてオレらは待てない、思いやり予算なんて No いらない、基地がいいって言う奴マジ……(伏字)、サクひとつこえれば法律ちがい、外に出たならばやりたい放題、ウマンチュ(万人)ぬ怒りはつのるばかり」
 と、沖縄のホンネが飛び出す。 
「俺たち、沖縄慰霊の日(6月23日)のテレビは、必ず観ますよ。ビデオとってでも。俺たちにとって、それは当り前のことですから。女の子を歌い、冗談を言い合うのと同じように、俺たちの生活に基地問題はあるし、ブッシュもいる。それをアルバムに全部入れているんです」
『Vibes UP』は、さんさんと輝く太陽の下で、沖縄の(特に都市の)若者の心を活写して優れて刺激的な作品である。

NHK出版
 ユープラの二人がインタビューの時に、食い入るように見つめていたのが、目取真俊の『沖縄「戦後」ゼロ年』に載った沖縄戦の写真だった。
 目取真俊は「水滴」(芥川賞)などの作品で知られる小説家だが、沖縄の現実に鋭い論評を加える人物でもある。今回の著作は、沖縄に、あるいはアジアに「戦後(戦争が終わって)うんぬん」とはたして言えるのかどうか、という大きな疑問を提示するところから文章が始まる。「平和憲法」と「安保条約」がセットになっていることで成立している「戦後」の日本。国防をアメリカに肩代わりしてもらい、その安全保障の上に立って経済の発展があった。この大きな矛盾、歪みを全身で引き受けさせられているのが沖縄である、と。
 その沖縄から日本(ヤマト)を糾弾し、沖縄内部のウミを突いてゆく。
 彼の父が少年兵として沖縄戦にかり出された時の秘話を元に、戦争の残虐性を語る前半部から、読み応えがある。父は14歳の時に鉄血勤皇隊の一員として動員され、敗残兵として沖縄島北部をさ迷う。目取真は、父のその時の行動を、戦争被害者としてだけではなく加害者としても紹介してゆく。
「ひめゆり学徒隊や鉄血勤皇隊の学徒兵の死を、国のために命を捧げた『殉国美談』に仕立て上げようという動きは、戦後の日本で一貫してあります。しかし、父の戦争体験を見ると、そんな『美談』など嘘だということが分かります。軍国少年の父が抱いた、天皇のために命を捧げる、という気持ちも、実際に戦闘に参加し、必死に生き延びた日々の中で崩れ去っていきます」(31ページ)
「戦後」をキーワードにして、目取真は、現在の沖縄で起こっている様々な問題にも触れる。基地問題は当然として、ここ最近目だって増えてきた沖縄の子どもたちの荒廃が学校教育の変貌と密接な関係にあることなどは、教育者である彼らしく具体的で説得力にあふれる。外間守善(ほかましゅぜん)、高良倉吉(たからくらよし)ら高名な学者たちの「中央」「天皇制」への取り込まれよう、あるいは「転向」の問題にも触れている。
 いわゆる「沖縄ブーム」に関しても、彼は辛辣だ。たとえば、
「そういう歴史や現実、日本と沖縄の間にある権力構造を見ようともしないで、沖縄ファンの自分がエイサーを踊るのにどうして文句を言うの? って言われ、『沖縄ナショナリズム』なんて批判されようものなら、私なら蹴りを入れますよ」(171ページ)
 ヤマトの「沖縄大好き」に対する、ウチナーンチュからのホンネの返答、と言える本かもしれない。

 ゴー宣言の小林よしのりも『沖縄論』をまとめた。思想的に、もちろん目取真とは正反対の小林である。
『沖縄論』は、『SAPIO』に2004年から約1年をかけての連載された漫画/社会時評に、新たに、沖縄人民党のリーダー、そして那覇市長として米軍支配と戦った瀬長亀次郎の闘争史ほかを描き加えている。古代史から現代史までの歴史を細かく描き上げ、ベーシックな沖縄の文化をはさみこみ、そして折々にギャグを盛り込むという彼らしいスタイルだ。
 面白いことに(?)、反米、そして現在の日本の経済的な繁栄と安全保障は、沖縄が犠牲になることによって支えられてきたという主張は、一見するところ目取真俊とは変わらない。だが、たとえば、
「薩摩侵入は琉球処分ではない。文字を正式に普及させ、古琉球を改革するための同じ民族からの外圧である。薩摩侵入がなかったら、彼らは異民族の侵入を受けただろう」(186ページ)
 となるとまさしくゴーマニズム宣言。小林の言う「薩摩侵入」(1609年)とは歴史上の画期となった「慶長の役」のことだが、ここにいう同じ民族からの外圧とは、戦国時代の国取り合戦ようなことをイメージさせようとしているのか。私は、外圧という言葉を使おうが、侵入と呼ぼうが、沖縄島における統一国家(琉球国)は、薩摩によってこの時から支配と搾取を受けたことに変わりはないと考える。彼は、同一民族であるのなら、そういう扱いを受けてさしつかえない、というのだろう(同一民族論については「沖縄人は本土人と同じ北方系」として、小林はミトコンドリアDNA分析の結果を発表している=183ページほか)。これを指して、小林は言う。
「わしは勉強すればするほど、『薩摩侵入』も『沖縄県』への移行も、世界の変動の中から考えると、必然であり、最善のことだったように思えてきた」(184ページ)。
(歴史的な)必然だった、という言い方は、日本軍の太平洋戦争開戦を肯定する時によく見かけるが、17世紀初頭から薩摩に支配を受けたことも、明治期に入り琉球が中国(清)と日本との間で争奪合戦となったことも、世界史的な流れに立てば良し、とする…これって、ずいぶん乱暴な意見じゃないか? 
 小林よしのりは「国家は外部の圧力によって固められるもの」(399ページ)と語る。
 であるとするならば、ヤマト側からの連綿たる「圧力(特に明治期から以降)」があるがゆえに、ウチナーンチュが沖縄という「くに」をそれぞれの心に生み出したのである。
 彼は言う。沖縄こそが「原日本人の宗教感覚を残存」させており、「西洋化された本土の方が辺境」だ、そして「沖縄こそが日本」だと(399ページ)。
 しかしながら「そのことが天皇制や国家を無化することに繋がりはしない」(同ページ)、とも。
 すなわち日本国と天皇制に、沖縄こそが堂々と胸を張って参入すべきである、というのが、彼の主張である。
 だがユープラの歌に噴出している「植民地であり続ける沖縄」というイラ立ち、その視線、そして、目取真俊の著作に現わされた、(米軍も日本軍にしても)国家は沖縄を救ってくれたことなどないという重い実体験と記憶こそが、現代沖縄の「くに」意識の起点であり、これは小林の誘い水とは馴染まないであろう。たとえその意識が仮に、小林の言うウチナーンチュの過剰なる「沖縄被害者史観」の反映であるとしてでも。

 21世紀に入り、沖縄にはついに日本国の矛盾が一挙に噴出してきたように思える。
 南方には領土問題に揺れる島々を抱え、未だに基地問題は利権争いと米国のアジア戦略のハザマで未解決のまま。「長寿」「健康」というキーワードも、ずいぶんとまやかしであることが知れてしまい、本島周辺のサンゴはほぼ死滅状態。それでもヤマトからの観光に大いに頼る必要のあるのが、沖縄だ。かつてなら起こり得なかったような少年犯罪も、普通の日本と同じように発生し…それでも、沖縄を愛する人は絶えない。
 この沖縄をどうするのか。
(藤田正)
 
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( 2005/08/06 )

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