書評:芸人としての「学びの足りなさ」随所に・小波津正光 著『お笑い沖縄ガイド 貧乏芸人のうちなーリポート』
NHK出版・生活人新書
               文・藤田正
 著者である小波津正光(こはつ・まさみつ)は那覇出身のお笑い芸人で、県内では「お笑い米軍基地」という舞台を中心に広く知られるようになった。沖縄の今を語る上で彼の「基地を笑う」というテーマと姿勢は、以前からあったにしろ、ウチナー口もおぼつかなくなってきた若い世代にとっては画期的だったといえるだろう。
 なぜなら、沖縄では米軍基地が日常的に存在し続けるがゆえに、その存在と問題点について、特に若い世代は案外と無関心であるからだ。戦後における島唄の興隆も、あるいはご老人たちの素敵な笑いも、すべてそのルーツに島の貧困があり、植民地に生きざるを得ない民としての自己発見があってこそであり、この根本を明るく、笑って伝えようとする著者は「出てくるのが遅すぎたんじゃないの!」というほどにぼくは嬉しく思う。
 本書は、そんな小波津による沖縄案内である。今の沖縄的な語り口を基本として、軽妙に今を語る『お笑い沖縄ガイド』。たとえば「観光客のみなさんが高級リゾートで『癒される〜』なんて言ってるすぐ隣では、米軍のみなさんが鬼軍曹に『しごかれる〜』と叫びながら、泥まみれでゲリラ戦に備えた訓練をやってるんだけどね」と、沖縄ならではの「笑い」を彼は披露する。あるいは、長寿の島なんて今や嘘っぱちなんだ、といった事実を、彼はウイットを込めて語るのである。
 ただ、小波津の問題は、彼の諧謔なりメッセージがそれ以上でもそれ以下でもないことである。ウチナーンチュじゃなくとも、沖縄好きであれば、そんなこと知ってるよ、なのね。沖縄的現実をちょいとイジッただけの「芸人としての学びの足りなさ」が随所にある。
 その最たるものが、小那覇舞天(おなは・ぶーてん)と照屋林助による戦後直後の活動、すなわち、悲嘆にくれる村人たちを歌と笑いで巡演した感動的ボランティア・ライブを、「単純に『米軍や戦争のことを笑いにしたら面白いんじゃないか?』と思ってネタにしてたんじゃないかや?」だって。
 あえて君に言う、お前はウチナーンチュか? 巨星お二人に土下座しろ、バカ者が。
*初出:「読み方注意!」=「週刊金曜日」2009年6月5日(753号)
 
amazon-小波津正光 著『お笑い沖縄ガイド』
amazon-小波津正光 著『お笑い米軍基地―基地に笑いでツッコむうちなー(沖縄)的日常』

( 2009/06/26 )

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